クラウド戦略なしでは企業のITが立ち行かない時代になって久しいですが、近年はそれがマルチクラウド、あるいはハイブリッドクラウドに進化しています。IT調査会社IDCによると、Infrastructure as a Service(IaaS)、 Platform as a Service(PaaS)、Software as a Service(SaaS)を含め、世界のパブリッククラウド市場は2019年の段階で前年比26%増の2,334億ドルに拡大し、それが2020年にはさらに24.1%増の3,120億ドル規模に達しているそうです。オンプレミス環境に依存していた企業が、部分的にパブリッククラウドへ移行するケースも増え、IT環境のハイブリッドクラウド化が進んでいます。
企業はこのような複雑化したインフラストラクチャに従来のツールでは対応できなくなっています。そのような状況をサポートするためにVMwareのようなベンダーも、vSphereのマルチクラウド サポートを拡充するなど、新しい時代のインフラストラクチャへの対応を充実化させています。具体的には、VMware Cloud FoundationやCloudHealthなどを活用したシステムの可視化、コスト管理、セキュリティとガバナンスの機能を提供し、さまざまなクラウド環境にまたがるインフラストラクチャの一貫した運用・管理を可能にしています。
しかし、企業がこのような新しいツールを有効に活用するには、マルチクラウド戦略の構築あるいは見直しが欠かせません。ツールだけが刷新されても、企業内の体制が整っていないければ、ひずみが生じて、効率性やセキュリティを犠牲にしなければならなくなってしまいます。
特に、コンテナやマイクロサービス、Kubernetesの導入は、インフラストラクチャの根本的な設計をくつがえし、従来型のデータセンター管理に大きな変革をもたらしています。
データ管理プラットフォームの革新
データはかつて一定のパターンに沿ってシステムに取り込まれ、それをそのまま把握し、監視することがデータ管理ツールの役割でした。システム間の接続ポイントでデータを監視し、1つの場所から他の場所に移る際に情報を集めて、比較すればよかったのです。
しかし、マイクロサービスではアプリケーションを細分化するので、データサービスとの連携も多様化され、かつてのような右から左への分かりやすいフローが存在しません。当然ながら、システム管理者は新しいツールに慣れるまでに時間がかかります。特に、従来型のツールに慣れ親しんだシステム管理者が、経験をアップデートするには、単に新しいツールに慣れる以上の労を要するかもしれません。企業のマルチクラウド戦略は、スタッフの教育を考慮に入れ、少しずつ理解を深められるような導入プロセスを策定する必要があります。
企業レベルで全体を俯瞰した視点が重要
マルチクラウド戦略には、部門ごとでなく、企業レベルで全体を俯瞰した視点が重要になります。アプリケーションは個々に複雑さやメンテナンス要件が異なります。クラウドに移行する際も、リスクの高いものと低いもの、移行によって得られる利点が大きなものと小さなものなど、アプリケーションの適性がそれぞれ異なります。企業レベルで個々のアプリケーションを評価し、優先順位をつける必要があります。それによって、移行プロセスを段階的に進め、その都度、プロセスの見直しと改善を繰り返してレベルアップを図ることができます。同時に、スタッフ教育を段階的に深められる点でも理に適っています。
アプリケーションの適性を見極める
マルチクラウドのデプロイメントは、オンプレミスのデータセンターとパブリッククラウドにまたがるケースが多く見られます。VMwareアプリケーションをオンプレミスに保持し、新規に開発・導入するシステムをパブリッククラウドにデプロイする企業も少なくありません。一から導入するシステムであれば、従来のやり方の制約を受けずに、そのまま新しい方式に当てはめることができます。
いずれにせよ、企業はこのような既存のアプリケーションと新しいアプリケーションを含めたエコシステム全体を俯瞰し、それぞれの特徴を理解することが重要になります。前述のように、マルチクラウド戦略には段階的で長期的な視野が必要であり、個々のアプリケーションのクラウド適性を見極め、その相互関係を将来的にも継続的に見直していかなければなりません。各アプリケーションを担当するシステム管理者が他のアプリケーションとの関係も理解できるようにすることが、長期的に重要な意味を持ちます。ハイブリッドクラウドの仮想環境では、1つのアプリケーションが他のアプリケーションのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性もあるので、そのような問題を防ぐためにも、企業内における複数アプリケーションの相互理解を深める戦略が有効になります。
長期的な視野、将来の進化を見据えた対応を
現在VMwareインフラストラクチャを活用する企業は、それを築き上げるのに数年、あるいは十数年の歳月を積み重ねてきたケースが一般的です。パブリッククラウドの活用は、VMwareが近年力を注いできた分野であり、効率性やセキュリティの面からも企業が得られる恩恵は計り知れないのですが、その恩恵は一朝一夕で得られるものではありません。短期的には、プロセスの複雑化、コスト、スタッフ教育などでマイナスの影響が出ることは、ある程度想定しなければなりません。そのうえで、長期的な成功を目指す必要があります。
忘れてならないのは、クラウド アプリケーションを取り巻く環境が今も進化し続けている点です。現時点では、マイクロサービスへの移行に大きな利点が見られないアプリケーションも、数年で状況が一変する可能性があります。そのような流動性を見据えて今から長期的な計画を立てていくことが、企業のIT戦略の重要な柱になるに違いありません。
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