パブリック クラウド、プライベート クラウド、オンプレミス リソースを組み合わせた構成のクラウド コンピューティング アーキテクチャを、ハイブリッド クラウド アーキテクチャと呼びます。ハイブリッド クラウドでは、データとアプリケーションを異なるタイプのリソースから共有できるようにすることで、個々のデプロイメントの特長を活かしたアーキテクチャの最適化が可能になります。
ハイブリッド クラウド アーキテクチャを採用している企業は、ワークロードの要件、規制やコンプライアンスの要件、技術的な要件や制約、セキュリティやコストなどの優先事項に応じて、データとアプリケーションを複数ロケーションでホストすることができます。
したがって、ハイブリッド クラウド アーキテクチャでは、異なる要素をどこに配置し、どのように管理し、モニタリングするかを決めるためのツール、サービス、ガバナンスのしくみやプロセスが特に重要になります。さらに、異なる環境を連携させるためのネットワーキング テクノロジーは、ハイブリッド クラウド アーキテクチャの根幹を成す骨組みとなります。
そして、異なる環境を統一性をもって一元管理できるようなプラットフォームもハイブリッド クラウド アーキテクチャでは重要な役割を担います。代表的なツールとしては、ハイブリッド インフラストラクチャ全般にわたるオーケストレーションとワークロードのポータビリティ(可搬性)を可能にするKubernetesが挙げられます。
仮想化とコンテナ化
一般的にハイブリッド クラウド アーキテクチャでは、VMwareによる仮想化や、Dockerを用いたコンテナ化など、コンピューティング リソースを抽象化するテクノロジーの運用が成功の鍵を握ります。たとえば、VMwareでは、サーバーをハイパーバイザーを通じて仮想化し、複数の仮想マシン(VM)を個々の用途に応じて別々に運用できるようにします。同様に、ワークロードのコンテナ化によるKubernetesクラスタでのサポートにもVMwareは対応しています。Kubernetesによるコンテナのオーケストレーションを複数の環境にまたがって抽象化し、効率化するツールとしては、Veeam傘下のKastenによるK10プラットフォームも注目されています。
ワークロードの可搬性
仮想化やコンテナ化は、ハイブリッド クラウド アーキテクチャにおいてワークロードの可搬性を確保する点でも非常に有効な技術です。実際に配置されている物理的な環境とは関係なく、アプリケーションとワークロードを異なる環境にまたがって柔軟に実行できるようにすることで、ハイブリッド クラウドの利点を維持しながら、インフラストラクチャを簡素化し、ユーザーの利便性を高めることができます。
オーケストレーションと自動プロビジョニング
ハイブリッド クラウド アーキテクチャでは、マネジメント プラットフォームを活用することで、リソースを効率的に管理し、プロビジョニングを自動化できます。異なる環境にリソースをニーズに応じて配置できるので、無駄を省いたり、事業規模の拡大に応じたスケーリングが可能になります。
ハイブリッド クラウド アーキテクチャの利点とは?
ハイブリッド クラウド アーキテクチャを採用することの主な利点を以下にまとめます。
- クラウドへの移行を容易に
オンプレミスのみの環境からパブリック クラウドへの移行を目指す企業にとっては、ハイブリッド クラウドが中間モデルとして機能し、より効率的で円滑な移行が可能になります。
- コストの削減
ハイブリッド クラウドではリソースの配置を最適化できるので、オンプレミスのみやパブリック クラウドのみの環境に比べ、コストを削減できる可能性が広がります。
- コンプライアンスの徹底
機密データをオンプレミスに保持することで法令や規制の要件を満たしたり、データ主権を確保したりできます。
- 既存アセットの有効利用
オンプレミスに既存するアセットをそのまま活用しながら、パブリック クラウドで新たなリソースを運用できるので、既存アセットが無駄になりません。
- ワークロードの可搬性の確保
仮想化やコンテナの活用により、ワークロードを複数の環境にまたがって柔軟に運用できるので、デプロイメントの選択肢が増えます。
- 障害復旧(DR)やレジリエンスの強化
地理的冗長性も含め、複数の環境へのデプロイメントが可能になるので、レジリエンスが高まり、事業継続および障害復旧(DR)計画を整備できます。
- スケーラビリティの確保
各ワークロードに最適な環境を選択でき、必要に応じて自動的な拡張性(スケーリングやクラウド バースト)を実現できます。
ハイブリッド クラウドの課題
ハイブリッド クラウドには、上記のように多くの利点がありますが、導入のためには超えなければならないハードルも少なくありません。個々の企業が置かれた状況によっては、以下の点がハードルになると考えられます。
- 環境の複雑さ
さまざまな環境にまたがって複数の要素が展開されるので、統合の複雑さは否めません。
- 管理の透明性
オンプレミスのみのデプロイメントに比べると、外部でホストされるインフラストラクチャは、すべての要素を管理下に置いて完全掌握できるわけではありません。
- パフォーマンス
ハイブリッドクラウドは基本的に分散型となるため、その分、ネットワークに負荷がかかり、パフォーマンスに影響する可能性があります。
- セキュリティ
オンプレミスのみの運用に比べれば、外部の環境と連携するので、アクセスポイントの管理が重要になります。
- 人材・スキル
統合を管理できるスキル、そのような人材が必要になります。
ハイブリッド クラウド アーキテクチャの実用例
プライベート クラウド、パブリック クラウド、オンプレミス リソースを組み合わせる方法は無数にあり、個々の企業のユースケース、要件、優先順位や制約に応じてアーキテクチャを柔軟に構成し、ニーズに合わせて運用することができます。以下に代表的なユースケースをいくつか紹介します。
- バックアップと障害復旧(DR)
パブリック クラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)は、オンプレミス リソースからのデータをバックアップして、障害復旧(DR)に備えるための効率的な手段となります。
- クラウド バースト
オンプレミスでの運用がピークに達したときに、超過ワークロードをパブリック クラウドにプロビジョニングするしくみです。
- ポリシーベースの配置
セキュリティ、コンプライアンス、レイテンシ、コストなどの要因にもとづいてルールを設定し、そのルールに沿ってデータとワークロードを配置します。
- セキュリティ セグメンテーション
機密性の高いデータやアプリケーションをオンプレミスやプライベート クラウドでホストし、それ以外のワークロードをパブリック クラウドでホストします。
以上、ハイブリッド クラウド アーキテクチャの特徴や種類、利点と課題、ユースケースを簡単に紹介してまいりました。移行やインフラストラクチャの拡大を検討する際には、利点と課題を自社のニーズに照らし、戦略的に取り組むことが何より重要になります。