医療分野こそAIを
ここ数年、IT関連の話題の主役は常にAIで、日常生活にもかなりAIが浸透してきました。それをいちばん肌でひしひしと感じるのは、インターネットで勝手に興味の対象が絞られたときです。あなたはこのニュースが見たいのでしょう、この動画が好きでしょう、これ欲しいでしょう、という余計なお世話が増えました。いや、余計なお世話ではなく、便利な機能として重宝している方のほうが多いのでしょうが、私は重宝していません。
個人的には、AIは、このような個人の興味を誘導して、時には意見を変に偏らせかねないような機能よりも、もっともっと医療分野への活用を広げてもらいたいと願っています。検査画像診断などでは、すでに開発が進んではいますが、健康状態の診断やアドバイスなど、人々の日常生活に密着したAI活用がもっと進めばよいのにと感じます。
現実には、医療現場では、医療従事者が過重労働に苦しんでいるというし、医療はもっともDXが必要で、もっともDXが進んでいない分野なのではないでしょうか。
医療はデータの宝庫なのに、宝の持ち腐れ
医療分野はデータの宝庫です。日々、最新の重要データが蓄積され続けていて、有効利用すれば、社会を大きく改革し得る貴重なデータ群です。誰がどのアイドルを推しているとか、どのスポーツに凝っているとかの情報より、社会的にずっと意義のあるものです。
そして、医療分野ほどデータが有効利用されていない分野はない、という声もよく聞きます。データに大きな価値がある分なおのこともったいない、というか、データの価値がシステム価値に直結するAI設計においては「宝の持ち腐れ」状態に映るのでしょう。
AIで個々の患者の健康状態をより緻密に管理するとか、そんな込み入った話に限る必要はありません。単に、データを効率よく整理して、必要なものを簡単に取り出せるようにするとか、そういった基本的なデータ管理を強化するだけでも、医療従事者の仕事は軽減されるはずなので、AIを活用するかしないかは横に置いておいても、医療現場にDXはぜひ必要です。医師のペーパーワークを減らすだけでも大違いのはずです。
サイバー攻撃に狙われている医療機関
まして、昨今のサイバー攻撃の事例を見ると、医療機関が被害に遭うケースが増えています。医療現場はデータの宝庫と上に書きましたが、同時に個人情報の宝庫でもあります。データのセキュリティが特に重要となる分野であり、バックアップや障害復旧(DR)プランの完備は必須です。イミュータブル(不変)バックアップを備えたランサムウェア対策が理想的ですが、対応している医療機関は多くはないようです。
さらに付け加えると、医療はデータ管理のスケーラビリティ(拡張性)も重要な分野です。日々増える重要データの保存場所を拡大しなければならず、季節性の感染症などにより、時期によって処理すべきデータ量に差が出る特性もあります。医療機関には、クラウドを活用したインフラストラクチャの整備が急務です。
DXは着実に一歩ずつ
しかし、DXの大風呂敷を広げすぎると、逆に何もできなくなってしまう可能性があります。デロイト トーマツの調査によると、米国ではデータ主導型(data-driven)のアプローチを確立できていると答えた医療機関は16%しかなく、43%は分断された互換性のないシステムの混在がDXの足枷になっていると答えています。日本の医療機関では、マイナ保険証の混乱も相まって、米国以上にDXの道が険しいのではないでしょうか。
統一性のない複数のデータソースに別々に対応しなければならない状況は、多くの医療機関が抱える課題であり、統一されたデータ主導型プラットフォームを確立するには長い道のりが必要です。経営上、そこまでの投資には踏み切れない現実があると、米国では分析されています。ましては、日本の医療機関は言わずもがなです。
BI導入でDXの第一歩を
大々的なDXではなく、できるところから一歩ずつ前に踏み出すには、BI(ビジネスインテリジェンス)の導入が有効です。健康データをわかりやすく視覚化してダッシュボードで患者さんに提示できれば、医療従事者の仕事が軽減されるし、予測分析で各個人の健康管理が強化されて社会全体での健康増進につながり、地域医療の負担軽減、強いては公的医療費の軽減にもつながります。
病院内での業務の効率化にもBIの活用が有効です。たとえば、激務で知られる看護師のシフト管理にダッシュボードを導入するば、いつ、どのタイミングで、あるいはどの病棟で、どのくらいの人員が必要かを予測でき、より的確な配置で各個人の負担を軽減することができます。
また米国の例になりますが、以下はEspressシリーズを活用して導入されたナースコールの頻度を表すダッシュボードです。
このように、BIは医療機関内の業務管理にも、各患者さん用にカスタマイズされた健康管理ダッシュボードとしても、すぐに活用できるので、医療分野の貴重なデータを有効利用する手段としては、もっとも手軽に実現しやすいDXの第一歩と言えます。
手軽に実現できるわりには、社会的な効果も高く、非常に有意義なデータ活用術ではないでしょうか。医療現場に眠っている重要なデータを、今すぐBIで活用しない手はありません。
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