医療機関におけるダッシュボードの活用


 

ヘルスケア ダッシュボードのベストプラクティス

日本の医療は今、曲がり角に来ています。高額療養費制度の見直し案が凍結されましたが、高齢化と人口減少にともない医療財政の見直しが迫られていることに変わりはないようです。独立行政法人「福祉医療機構」の調べによると、2023年度で一般病院の半数は赤字経営を強いられているといいます。物価や人件費の上昇に診療報酬が追い付いていないのが主な原因だと分析されています。

しかし、政府の医療制度改革に期待する前に、個々の病院や医療機関にはまだまだDXによる効率化の余地があるはずです。基幹システムを入れ替えるとか、新システムを導入するとかの重大な経営判断を要するDXではなく(それも必要かもしれませんが、そのような時間と費用のかかるものではなく)、ダッシュボードを導入して組織内のコミュニケーションを円滑化するという、すぐに取り掛かれるDXを実践するだけでも、医療の効率化とサービスの向上が期待できます。

医療機関こそDXが急務

ここでは、医療機関がDXへと踏み出す大きな一歩として、ダッシュボードによるデータ分析の導入を推奨し、ヘルスケア ダッシュボードのベストプラクティスを紹介したいと思います。

医療分野はデータの宝庫です。あらゆる業種でビッグデータの有用性が叫ばれ、ビジネスインテリジェンスやAIの活用が推進されて久しいですが、実際には、医療機関ほど貴重なデータに溢れている分野はほかにありません。人の好みや消費傾向を分析するデータよりも、健康の増進に役立つデータのほうが社会的に有益だという意味において、医療機関にはどこよりも貴重なデータが眠っているのですが、貴重さに反比例してデータの活用は進んでいません。

そのデータ活用の第一歩としてもっとも簡単かつ効果的なのがダッシュボードの導入です。ダッシュボードで組織内の課題を明確にすれば、速やかな意思決定が可能になり、業務改善や運営の効率化につながります。たとえば、ダッシュボードによって必要なリソースの分配(看護師のシフト、設備や医薬品の配置など)を最適化でき、医療従事者の過重労働の軽減にも役立つはずです。また、ダッシュボードによって医療スタッフ間の情報共有が促進され、よりきめの細かい患者ケアが可能になります。

ダッシュボード デザインの基本

ただし、ダッシュボードにも効果的なものとそうでないものとがあるので、気をつけなければなりません。ダッシュボードのデザインで特に留意すべき基本ポイントを下記にいくつかまとめます。

  • 極力シンプルですっきりしたデザインを心掛ける。情報の階層構造を明確にし、最重要データを先に提示して、詳細へと導く。
  • 色を効果的に使い分ければ、グラフや表が見やすくなり、情報が理解しやすくなるが、使い過ぎに気をつける。テーマに沿った一貫性のある色使いで、余白を十分に取ったシンプルなデザインにする。
  • 情報の盛り込み過ぎを避ける。優先順位付けとカテゴリー分けで、体系立った情報のプレゼンテーションを目指す。
  • 一貫性のあるレイアウトで、情報の見つけやすさを最優先にする。
  • フィルタなど、インタラクティブな要素を取り入れ、ユーザーが自ら詳細情報を探求できるようにする。
  • シンプルなナビゲーションとラベリングで、直感的に操作できるユーザーフレンドリーなデザインを確立する。
  • 完成したダッシュボードは定期的に見なおし、ニーズの変化やユーザーからのフィードバックに応じて継続的に更新していく。

 

ヘルスケア ダッシュボードのベストプラクティス

さらに、医療機関がヘルスケア ダッシュボードをデザインするうえで考慮すべきベストプラクティスを、より詳しく見ていきます。

ダッシュボードの目標と対象ユーザーを明確にする。

一般的なダッシュボードにも言えることですが、ダッシュボードを作成する前に目標と対象ユーザーを明確に設定して、誰に何を伝えるのか、どのようなデータが判断基準(またはKPI=重要業績評価指標)として役立つのかを定義する必要があります。医療機関内で使用する場合は特に、経営管理者向けなのか、運営スタッフ向けなのか、医療スタッフ向けなのかで、目標やKPIが大きく異なります。たとえば、ナースコールシステムのデータ分析ダッシュボードは、看護師業務の管理者向けにナースコールへの対応状況をデータで視覚化して、シフトやリソース割り当ての効率化を目指すもので、レスポンスタイプなどがKPIとなります(詳細やサンプルは医療機関のDXに不可欠なBIダッシュボード | ナースコールのデータ分析をわかりやすく視覚化を参照してください)。

簡潔で焦点の定まった内容にする。

ダッシュボードがその目標を達成するには、重要な情報に焦点を絞り、ユーザーの理解をサポートすることを最優先にすべきです。あまり多くの情報を提供し過ぎるとユーザーを混乱させ、逆に理解を妨げるリスクがあります。情報を段階的、階層的に提供して、一貫性のある道筋でユーザーを徐々に詳細へと導いていきます。これは、対象が病院の経営者でも、運営スタッフや医療スタッフでも原則は同じで、ダッシュボードが伝えるストーリーにユーザーを引き込むようなストーリーテリングを意識することが大事です。詳しくは、データは何も語らない | ダッシュボードのデザインで大切なストーリーテリングを参照してください。

情報の階層とフローを明確にする。

ダッシュボードでは、ユーザーが必要な情報をすばやく見つけて理解できることが最重要であり、そのためにデータの視覚化(グラフや表)を駆使します。しかし、色とりどりの図表を詰め込めばよいのではなく、論理的なカテゴリー分け、適切な階層とフローでユーザーを概要から詳細へと導く必要があります。途中でユーザーが迷子にならないよう、明確なテーマに沿った一貫性のあるフローが何よりも重要です。

データのセキュリティとプライバシー保護を徹底する。

医療機関のデータ分析では、プライバシー保護に細心の注意を払う必要があります。データへのアクセス制御を厳密にして、セキュリティの管理を徹底すると同時に、特定の患者データをダッシュボードに使用する際は(医師向けの特殊な場合を除き)データの匿名化を徹底する必要があります。医療機関のダッシュボードは、特に厳格なプライバシーとセキュリティ保護が要求されることを忘れないでください。

テストとレビューを定期的に実行する。

ヘルスケア ダッシュボードは定期的に見なおし、データを更新する必要があります。それが診療データの分析であっても、看護師の勤務状況であっても、意思決定は最新の情報にもとづいて行われるべきであり、体系だったデータ更新プロセスの施行が必要になります。また、ダッシュボードのデザイン自体もユーザーのフィードバックにもとづいて定期的に見なおし、わかりにくい点や使いにくい点があれば速やかに是正していく必要があります。

まとめ

病院などの医療機関は、高齢化、人口減少、医療費の増大といった厳しい環境に置かれる中、DXの推進と効率化が急務になっています。急激なDXに取り組む余裕がない医療機関であっても、ダッシュボードの活用による業務の効率化は、比較的すぐに実現可能であり、DXへの第一歩と言えます。ましてや、医療分野は貴重なデータの宝庫であり、他の分野にも増して、データ活用を積極的に進めるべき分野でもあります。ただし、ダッシュボードはデザイン次第で効果が大きく異なるので、ダッシュボードの導入にも計画性は重要です。ここで紹介したヘルスケア ダッシュボードのベストプラクティスが、医療機関におけるDX推進のきっかけとなり、日本の高度な医療水準の維持に多少なりとも寄与することを期待しています。

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